
白鳥とクジラのあわいへ ― 十月十日を迎える、夕暮れどき ―
白鳥とクジラのあわいへ
― 十月十日を迎える、夕暮れどき ―
2026年の夏。
いくつもの出来事が、少しずつ重なりながら、ひとつの場所へ向かっているような感覚.....。
地震。
クジラ。
白鳥。
山と海。
家族。
そして、音。
それぞれは、まったく別の出来事のように見えるけれど、
振り返ってみると、そのあいだをひとつの糸のようなものが、流れている。
その糸を「意味」として決めつけるのではなく、
音が生まれていくときに、世界が静かに呼応していく感覚として受け取っています。
今回も、その流れを少しだけ記しておきたいと思います。
海辺で生まれた曲「クジラ」
「クジラ」という曲の源流は、2025年11月1日。
安房でのコンサートのアンコールにありました。
安房には、その数ヶ月前に4頭のクジラが座礁した場所がありました。
アンコールで、その場から生まれてきた即興の音。
その時、4歳だった末っ子がステージに上がってきて、私はその小さな身体を抱きながら演奏しました。
胎児の心音のようなパーカッション。
深海を漂うような感覚。
つながり。
そして、
その音は、夏の音旅、東北での「境のない世界」で触れていた記憶とも重なっていました。

海と山。
生まれることと、還っていくこと。
目に見える世界と、見えない世界。
その時生まれた音は、ただそのまま受け止められながら、彼方へ消えていくかのようでもあり、
その名残は、決して色あせず......そして、名前も決まってはいませんでした。
そして、
再現できるタイミング=楽曲として生成していくタイミングを待っていました。
時間をかけ、
音旅が各地を廻るうちに、私はその曲を「クジラ」と呼ぶようになりました。
十月十日を迎える
2025年11月1日から、2026年8月8日。
それは、十月十日。
その頃、「台風14号(クジラ)」が発生しました。
そして、そのニュースを知ったのは、長女の18歳の誕生日の日でした。

偶然と言えば、もちろん偶然です。
私は、こうした出来事に「特別な意味がある」と決めつけたいわけではありません。
なんというか、、、
作品が生まれ、育っていくとき、
不思議なことに、遠く離れた場所や時間にある出来事が、静かに呼応していると、感じる出来事が目の前にあらわれ続けます。
8という数字を見ていると、渦のようにも見える。
1という数字は、一人ひとりが、この地球に立っている姿のようにも感じる。
ひとつひとつの命。
ひとつひとつの場所。
ひとつひとつの時間。
それらが離れて存在しているようでいて、大きな流れの中では、確かにつながっている。
そんな感覚です。
揺れる大地、記憶される場所
この一年、私は「地震」という出来事についても、何度も思いを巡らせていました。
私が暮らす長野県で起きた大きな地震。
そして今年、4月18日にも、昨年に続いて震源地で地震がありました。
そのたびに思い出していたのが、10年前の熊本地震です。
4月14日。
私の生まれ故郷であり、両親が育った土地。
親戚やお墓のある場所。

その地震は、次女のプライベート出産から、ちょうど一週間後に起きました。
命が生まれた直後に、大地が大きく揺れた。
その記憶は、10年経った今も、私の中に深く残っています。
昨年から繰り返し思い出していたその記憶が、今年もまた、大地の揺れをきっかけに浮かび上がってきました。
犀川で弾くことになった夏
そんな流れの中で、今年の6月と7月。
私は不思議と、犀川沿いでピアノを弾く機会をいただきました。
振り返れば、一年前の夏至。
私が暮らす地域で起きた、熊の出来事。
そこから生まれた曲。「熊と山と」
曲が生まれたのは、東北の鳥海山の麓での演奏中でしたが、
こうして、はじめて、象徴的な出来事が起きた場で、奏でることができました。

「熊と山と」近日、朋OnlineMember公開。
そして6月。
私は、はっきりと、
「夏に安房へ」
という感覚を感じはじめました。
ピンクの灯火と、安房の山
秋田での「境のない世界」の音旅。
その中で、私はひとつのピンク色の灯火を受け取りました。
その灯火のことを思い出していた時、
昨年、初めて安房を訪れた日のことが蘇ってきました。
あの日、山の神様に背中を包まれたように感じたこと。
その時に感じた色も、ピンクでした。
そして今回、改めて安房へ向かうことになった時、
最初に私のところへ入ってきたのが、
白いアップライトピアノ「Gershwin」
の情報でした。
白いピアノ、白鳥、そしてクジラ
Gershwinは、白鳥楽器製造のピアノ。
それを知った瞬間、
2018年に生まれた、
「DreamTime - 白鳥 -」
のことが浮かびました。

この曲が生まれたのは、安曇野。
わたしが暮らす場から程近い場所。
そして今、
「白鳥」という名前を持つピアノが、
クジラが訪れる海岸沿いの場所へやってきた。
白鳥とクジラ。
山と海。
2018年と2026年。
安曇野と安房。
遠く離れているように見えるものが、ひとつの場所で出会おうとしている。
私はそのことに、静かな驚きを感じました。
そして、自然に湧いてきたのです。
「DreamTime - 白鳥 -」も、ここで弾きたい。
もうひとつの海の記憶
そういえば、昨年「境のない世界」の旅で男鹿を訪れた時のことも、思い出しました。
その旅では、津波の犠牲になった方々の慰霊碑を訪ねることが目的でした。
その日に、カムチャッカ半島で大きな地震が起き、太平洋沿岸に津波警報が発令されました。
そしてその時、安房の海岸に4頭のクジラが座礁したことを知りました。
その頃私は、
神戸で生まれた「Eternal」という曲の中に聞こえるクジラの声と向き合いながら、音を生成しているところでした。
遠く離れた場所で起きていること。
過去の記憶。
今、自分が向き合っている音。
それらが、またひとつの海の上で重なっていく。
そんな不思議な感覚がありました。
安曇野から安房へ
そして、もうひとつ。
「DreamTime - 白鳥 -」が生まれた安曇野の白鳥が飛来する場所。
今回、安房でコラボレーションする安房育ちのまさくん夫妻と、
8月22日のコンサートの企画を最終的に詰めていく中で、思いがけず、その場所を訪れることになりました。

音が生まれた場所。
これから音を届ける場所。
そこに立つ人。
そして、その間を移動していく私。
振り返ると、また
ひとつの和が描かれていくのを感じます。
8月18日、白いピアノに会いに行く日
そして、8月18日。
初めて
白いアップライト"Gershwin"のいる場所へ向かいます。
この日は、父の80歳の誕生日でもあります。
父が生きてきた80年という時間を心に置きながら、
白いピアノに会いに行く日。
そう思うと、この日のことが、地の底から浮き上がってくるかのようです。
私が生まれたこと。
ここまで歩いてきたこと。
音楽を続けてきたこと。
そのすべてのずっと前から、ひとつの時間が流れている。
父が生きてきた80年。
その時間の先に、今の私がいる。
そして私はその日、新しい音の場所へ向かう。
何かを完成させに行くのではなく、
ただ、会いに行く。
その場所の空気に触れ、
Gershwinの前に座り、
そのピアノがどんな声を持っているのかを聴いてみたいと思っています。
音が生まれる、その渦の中で
こうして振り返ってみると、
地震も。
台風も。
クジラも。
白鳥も。
山も。
海も。
家族も。
これまで生まれてきた曲も。
ひとつひとつは、何の関係もない出来事なのかもしれません。
でも、私の中では、それらが少しずつ渦を描きながら、今この場所へ集まってきていると感じます。
出来事と出来事のあいだ。
記憶と記憶のあいだ。
人と土地のあいだ。
生まれたものと、これから生まれるもののあいだ。
そこに、
まだ言葉になっていない何かがある。
白鳥とクジラのあいだにあるものを、音で聴いてみたい。
そんな気持ちで、安房へ向かいます。
8月20日、夕暮れどきへ
そして、この時間を、
朋OnlineVipMemberのみなさんにもお届けできたらと思っています。
8月 VIP LIVE
夕暮れどき ― 白鳥とクジラ ―
安房の海辺にある白いアップライトピアノ「Gershwin」とともに、
「DreamTime - 白鳥 -」
そして
「クジラ」
の音に深く触れる、およそ40分ほどの時間を予定しています。
ただ、現時点ではまだ正式決定ではありません。
8月18日に初めて現地を訪れ、
オーナーさんと直接お会いしたうえで、最終的に決める予定です。
開始時間も「夕暮れどき」としかお伝えできない、何ともいつもとは異なる質を感じる時間です。
その日、その場所で何が起こるのか。
人がふらりと訪れる.....
思いがけず音が重なるかもしれない。
セッションが始まるかもしれない。
私にも、わかりません。
だからこそ、
「決まっていない時間」の中で、音が生まれていく瞬間を共に、見届けてもらえたら
と思っています。
そして今回は、アーカイブも残します。
8月20日の夕暮れにリアルタイムで一緒にいられる方も。
その時間には参加できない方も。
後日、ご自身の時間の中でゆっくり触れてくださる方も。
それぞれの場所、それぞれの時間から、この音旅を受け取っていただけたら嬉しいです。
白鳥とクジラのあわいで。
山と海のあいだで。
過去と今のあいだで。
そして、まだ見えていない未来とのあいだで。
どんな音が生まれるのか。
8月20日の夕暮れに、一緒に耳を澄ませてもらえたら嬉しいです。



